その男、未来を語る<後>
神妙な表情で、黙ってしまった興之助を妖ノ宮は扱いかねていた。
そんな顔をされるとは思っていなかった。ただ、いつものように軽く受け流されて笑うのかと思っていた。他の話題でも出して、いつもの調子を取り戻してもらうとしよう。
妖ノ宮は暇なときに書き付けた紙を袖の中から出した。文机に色んなものを積み上げるときに発見したものが早速役に立つとは。
「前から思っていたのだけど、どうして未来がわかるの」
急な話題に興之助がこちらを見る前に袖に紙を隠せたのは、彼女の動きにしては上出来だった。しかし、くしゃっと紙が音を立てたのはごまかしようもない。
妖ノ宮は笑ってごまかそうかと思ったが、先に一度失敗している。何もありませんでしたよと言いたげなつんと澄ました顔で見返すことにした。
興之助はため息をついて髪をかきあげた。
それだけで、余裕綽々のいつもの顔に戻る。
「俺には未来が見えるのさ」
そういう主張は知っている。それは、なんの具体性もない回答でしかない。どういう風に見えるのだとか、いつから、どのように手に入れた力なのか、効果範囲はどのくらいなのか。
そういったことは何も言わず、結果だけを告げる。
妖ノ宮は胡散臭いと思いながらも深く問おうとは思わなかった。
「スゲーよなー。俺。顔のいい奴はなんでもできちゃうんだよなー」
笑って冗談のように言うが、本当なら怖くも魅力的な駒。この男はどこまでそれを理解しているのだろうか。
妖ノ宮は饅頭を手に取った。わかってて言ってるんだろうなぁと思いながら。
「そういうことにしといてあげる」
「くっ、信じてねぇな! 姫様の未来も予言してやろうか?」
妖ノ宮は饅頭をほおばりながら頷く。そして、のほほんとお茶など口に含むべきではなかった。
「なんてこった。あんた俺に惚れちまうらしいぜ!」
吹くかと思った。
妖ノ宮はお茶を無理やり飲み込んだが気管に入ったのか咳き込む。
大体どこからそういう発想が出てくるのだ。身分とか年の差とか半妖だとかそういうことを完全無視していきなりそういうことを何故言い出すのだと。
……と、言いたくても息も絶え絶えに突っ伏してしまう。
「なーんてなって……大丈夫か?」
しかも、俺に、と。自惚れもいいところだ。惚れられるくらいにいい男なのかと問い返してやりたい。
「……死ぬかと思った」
ようやく咳もおさまり妖ノ宮は渋い顔で答える。もし、死ぬにしてもこんなことではなく、もう少し真っ当な理由で死にたいものだ。
「怒った? ……怒ってないよな?」
ひどく真面目な表情で問われ妖ノ宮は少しだけ笑った。
「最近、団子が食べたいのよね」
「はいはい。次は買ってきますよ」
興之助は店の名前をいくつもあげていく。彼女の好みのものを買うつもりらしい。妖ノ宮はくすくす笑いながら、好みを余すところなく伝える。
たわいもない日々がまだ続くのだと妖ノ宮は思っていた。
ここでだけは。