おまんじゅうを求めて

 事の発端は、おまんじゅう、であった。
「ねぇ。このおまんじゅうってどこで買っているの?」
 妖ノ宮は今日のおやつを持ってきた妖の桂に訊ねる。桂はいつも大きな椀を被ったままのため口元しかわからないが、少し笑っているように見えた。
「今日はお近づきの印と商人が持ってきましたよ。私たちもいただきましたが、毒はないようですからお出ししています。おいしかったですよ」
 確かに今日のおやつはいつもと少し違っていた。妖ノ宮はしげしげと手にとって見る。白くてお酒の匂いがする。そして焼印の豪の文字。ずっしりとした重みは餡の量を期待させる。
 皿の上のまんじゅうの数を数える。四つ、手に持っているのをあわせて五つ。
 桂が手に持っている皿には同じ数が載っている。
 妖ノ宮の脳裏に全部独り占め計画が浮かんだ。
「もふ、……伽藍様は館にいまして?」
「これからお持ちしようかと」
「よいしょ」
「宮様?」
「一緒に食べたいの」
 全部横取りするために。
 お饅頭を載せた皿を持って伽藍のもとに赴く。
 にっこり笑って一言。
「おやつにしましょう?」
 そのときのでれでれの伽藍の顔を見ていられなかったとは桂の言である。

 その数日後、妖ノ宮はそのまんじゅうを持ってきた商人を呼びつけた。
 おまんじゅうがおいしかったから顔がみてみたくなっただけなのは、本人以外わかってない。
「あたくし、豪徳屋4代目店主束原恩次郎と申します。お父上には大変お世話になりました」
「そうなのですか」
 気のない相槌を打つ。そんな妖ノ宮の様子に慌てもせず、恩次郎は木箱を出した。
「こちら当店で扱っているおまんじゅうでございます。お納めください」
 まんじゅうの入った箱は、二重底になっていた。黄金色の小判が収まっている。
 父上もコレもらったのかなぁ。まんじゅう増量を期待していた妖ノ宮は落胆しつつそんなことを考えていた。そして、なにかこれとよく似たものを見たことがある気がしてきた。
「今後ともわたくしどもの商店をごひいきに」
「そちも悪よのぉ」
 という絵物語があった。
 ただし、そのあと正義の味方にやっつけられるのだけど。あれは佐和人のところで読んだんだっけ。
「いえいえ、姫様ほどでは」
 本に書いてあった通りに、ふふふ、と笑ってどきどきしながら正義の味方の出現を待ったが、誰も出てこない。なんだか期待を裏切られたような気分になる。
 もし、出てきたら成敗されるのは自分であるから楽しいことにはならないだろうけど。
 そもそも、妖の巣窟にやってくるのは紅月と商人くらいだ。もしくは天井裏の忍だ。今日もいそうな気がしている。変わった動向は確認しているだろうから。
 妖ノ宮はため息をこっそりついた。暇人め。
「おまんじゅうがご入用のときは申し付けください」
 そう言って恩次郎は早々に帰っていった。時間を無駄にしない性質らしい。
 妖ノ宮は残された饅頭をつまむ。
「悪人みたい」
 口を尖らせて言った言葉に天井裏の住人がなんともいえない顔したのは彼女の知らないことだった。

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